松浦カイのブログ

管理者:松浦カイ@チラ裏勢

<< あいつさんのデッキを代行して組んだよ,dec | main | こんなの出来ました >>

キミが愛した隷属機関

『人間ウィキペディア』こと白柳雄大(Yuudai Sirayanagi)曰く、

「奴隷とは、人間でありながら所有の客体すなわち所有物とされる者を言う。またはその階層や階級。奴隷を許容する社会制度を特に奴隷制という」

奴隷とはモノである。
ヒトを奴隷として扱うのが失礼だとするなら、奴隷をヒトとして扱うのもまた同様に失礼である。
――ヒトはヒトらしく、奴隷は奴隷らしく。

その棲み分けが出来ない者に奴隷を所有する××はない。



《第一幕》
白柳雄大を語るうえで真っ先に挙げられる項目はやはりその記憶力だ。「物事を記憶する事は僕にとって最大の快楽だよ」と本人が断言するくらいだから間違いない。
学校の試験が結局のところ記憶のゲームであると証明したのも彼であった。授業中の彼はノートも取らず、ただ教科書や黒板に記された文字列を記憶するだけの機械だった。それを真似したクラスメイトが次の試験で見るも無残な結果に陥ったのは言うまでもない。
彼の素晴らしいところは『何でもかんでも勝手に記憶してしまう』のではなく『覚えたいことは早急かつ正確に覚えられ、そうでないことは普通に忘れられる』という事だった。この場合の『普通』というのは、一週間前の夕食は何だったか?という問いに大抵の人間が「忘れた」と答えるくらいのごくありきたりな話である。

白柳雄大についてもうひとつ。彼には膝から下が無い。両脚とも。
彼の記憶力云々という事を知らず、ただ見掛けたとするならそこに目が行くのは当然だろう。車椅子に座った眼鏡の少年。それが誰しもが思う第一印象。無論少しでも話をしようものなら彼の口から溢れ出る知識の奔流に圧倒され、脚の事などすっかり『忘れて』しまうだろうが。

彼のあだ名に関して。
とある世界史の授業後の休み時間、白柳雄大が奴隷についての話をしていると、クラスメイトの木浦深亜(Mia Kiura)がこんな事を言った。
「白柳くんってまさに『歩くウィキペディア』だよねっ」
白柳雄大本人がニコニコと微笑んでいたため、他のクラスメイトに指摘されるまで木浦は自分が放った言葉に含まれている凶器に気付かなかった。
――歩く。それは脚で地を踏み、前へと進む事。
この日を機に、木浦は白柳雄大の奴隷となり、移動教室なんかの時に車椅子を押したりする姿をよく見掛けるようになる。ちなみに白柳雄大の愛車は自動前後進機能付きである。
ある意味で『人間ウィキペディア』というあだ名は、脚がなくても人間である事を主張する白柳雄大の雄叫びのようにも思えた。
読み物 | - | -